砂浜の瓶詰め

砂浜を瓶に詰めて、小さな海を作りたい。ハワイの有益な情報はほとんどありません。

LAMBー静寂の白夜のなかで

人魚は胎生か卵生かを考えていたら、半日が過ぎたことがある。

半獣半人は、昔から創作物のテーマとしてテッパンである。ケンタウロス、セイレーン、ケモノっ娘などもそこに含めてもよいかもしれない。たいていの場合、上半身が人間で下半身が獣である。言葉を発することができなければ、物語が進まないので仕方ない。

そう思うと、この作品はある意味画期的ではあった。公式サイトによると、『禁断が産まれる 世界が騒然、そして絶賛!禁断のネイチャー・ホラー』である『LAMB/ラム』である。映画のパッケージとして現れるのは、聖母マリア像のごとくに羊を抱く女性である。産まれたのはこの羊であり、多分この羊は半人半獣なのだろうということはトレイラーからも察しが付く。となると、この羊は下半身が人間という珍しい半獣半人なのだろう。というわけで、早速観てみた。

 

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『ミッドサマー』と同じ配給会社、そして舞台はアイスランドということで、きっと北欧ホラーによくある、不気味なほどに明るく、景色の美しさと得体のしれないものを対比させて恐怖感を演出するのだろうと思っていたら、正解だった。全編を通し、ほぼほぼ「明るい」。白夜ということだろうか、そもそも「夜」のシーンがない。暗がりからお化けがでてきたり、仄暗い水の底から何かが出てくることもない。そしてテンポはかなりゆっくりで、登場人物も少ない。そして何より、静かである。無駄なBGMも効果音もなく、登場人物も非常に寡黙である。いや、そこでは悲鳴が出ちゃうでしょ、と思うシーンでも、夫婦揃って一言も声を発しない。ただただ、壮大な山々に囲まれ、白んだ淡々とした日々の中で、物語は進んでいく。

聖母マリアのように羊を抱く女性、というあたりで薄々気が付いてはいたが、この映画のベースにはきっとキリスト教観がある。聖書では、主は羊飼いであるし、我々は迷える子羊である。戻ってきた兄の意味するところはなんだろうか。サタニズムを彷彿とさせるシーンもある。二重に絡まる親子観、特に母と子の間にある抗えない関係、そして人間の原罪。詳しいことは割愛するが、聖書への造詣が深いと、より楽しめる映画かもしれない。

しかしながら、最終的にはやや投げっぱなし感の否めない終わり方ではあった。ちょっと待ってくれよと思う、唐突に訪れるラストシーン。結局何だったのか分からないままにエンドロールが始まる。このスッキリしない終わり方を以って酷評することは簡単である。ただ、それだけで終わらせるには惜しい作品だ。事実、私もこの映画を観た後に、あのシーンは何だったのか、何を暗喩していたのかと、しばらく眠っていた聖書を出してきて考えてみたりもした。気がつけば半日以上はそんなことをやっていたような気がするので、少なくとも人魚の生まれ方について考えるよりは脳を使った。そうやって反芻させるのがこの映画の目的であるとするならば、我々はもう羊なのであり、あの広大なアイルランドの白夜の中に取り込まれてしまっていると言えよう。

 

 

子供 : 死なない

動物 : 死ぬ

セックスシーン : あり

心臓に悪いシーン : ほぼなし