砂浜の瓶詰め

砂浜を瓶に詰めて、小さな海を作りたい。ハワイの有益な情報はほとんどありません。

子豚は長靴を履かない

かつて長靴を履いたのは、猫であったか。

最近のハワイは雨季なのか、土砂降りの雨になることがある。少々の通り雨なら、水も滴るいい女を気取って歩くのだが、バケツをひっくり返したような雨になるとそうはいかない。本当に先進国なのかと疑いたくなるほど道が悪いので、水が捌けない。道の至る所に子供用プールかと思うくらいの水たまりができ、そこをアロハスピリットのかけらもない車が通っていく。日本のようにコンビニですぐに傘が買えるわけではなく、そもそも傘がどこで手に入るのか、5年住んでいても知らない。たまに見かける傘は馬鹿でかく、持ち手が曲がっていないので、さながら侍かのように真っ直ぐな持ち手を握りしめて持ち運ぶ他ない。徒歩通勤の私にとっては死活問題である。職場に着く頃にはスニーカーも靴下もズボンの裾もびちょびちょ。僅かにあったであろうやる気も一気にマイナスになってしまう。

というわけで、長靴を買った。Amazonで見繕った適当なものなので、真っ黒の、ふくらはぎの真ん中くらいまである何の変哲もない長靴である。一瞬、本気で胸まである胴長にしようかとか、おさるのジョージみたいな黄色の長靴にしようかとも思ったのだが、何とか正気を保つことができた。ちなみに胴長は人生で一度は履いてみたい。何だったらウェディングドレスよりも着てみたい。夜な夜な勤しんでいるゲーム『スプラトゥーン』の中でもキャラクターに胴長を履かせている。とはいえ、胴長で出勤するわけにも、サルになりきるわけにもいかず、無難なところに落ち着いてしまった。

最近の長靴はおしゃれなもので、Amazonにあったモデルさんの着用写真とか、街中でおしゃれ長靴を履きこなしている方々はとても素敵に見える。長靴というより、レインブーツといったほうが的確な気がする。ジーンズに合わせるショートのレインブーツは、かなりイケていた。自分もそんなふうに履けるかと思ったのだが、そうはいかないのが人生である。そもそも、私は足がバカでかいのでレディースの長靴は入らない。今回も男女兼用のものを買ったので、なんとなく野暮ったい。男女兼用なので、長さも中途半端。足が一番太く見えるであろう長さである。出勤にしか使わないだろうと思うと、みてくれなどどうでもいいのかもしれない。ただ足元の治安を保つことができれば、長靴冥利に尽きるというものである。

しかしながら、曲がり角でパンをくわえた超絶イケメンな大富豪にぶつかって、恐れ多くも一目惚れしていただくシナリオもゼロではないと考えると、こんな長靴で出会いたくはない。長靴をはいた私はさしずめ長靴を履いた子豚である。ここで豚と言い切ってしまうと、自尊心が地に落ちてしないそうなので、「子」の一文字の持つ可愛さに、己の自己肯定感を託したい。実際、子豚は生後6ヶ月で100kgを超えるらしいので、豚基準なら私は赤ちゃん、そう、赤ちゃん豚である。大富豪ともあればきっと人格者だろう。ともすると、長靴だろうが胴長だろうが、見た目で人を判断したりはしない。大富豪は生き物を飼っていて、私よりはるかにいい食べ物を与えたりしているはずなので、きっと生き物全般に優しいはずだ。そう考えると望みもあるのかもしれない。

「あるある」ではあるが、長靴が届くのを待っているうちに晴れに日が続くようになった。たまに小雨のような、霧雨のような雨は降るものの、Amazonで購入ボタンを押したあの日のような大雨には見舞われていない。せっかく買った長靴を早く履きたい気持ちもあるのだが、こればかりは仕方ないので気長に待とうと思う。大富豪に見初められる日もまた、気長に待とうと思う。