砂浜の瓶詰め

砂浜を瓶に詰めて、小さな海を作りたい。ハワイの有益な情報はほとんどありません。

宇宙を駆ける名作

いつか見ようと思っていて先延ばしにしている映画がたくさんある。

名作中の名作ともいわれ、全世界で熱狂的な人気を誇るスターウォーズシリーズ。いつか見よう、いつか全シリーズ見ようと思っていて早31年であった。スターウォーズを舞台にした、ディズニーランドのアトラクション・スターツアーズは大好きで何度も乗っているので、ダースベイダーとR2-D2、C-3PO、チューバッカの名前くらいはわかるし、ジャバ・ザ・ハットは寝起きの自分みたいで親近感が湧く。レイア姫とルークが「いいもの」で、ダースベイダーは「わるもの」。その程度の浅すぎるほどの知識しかなかった。ディズニーのサブスクリプションサービスに加入しているというのに、無料で全編見られるというのに、私のサブスク代はたまにプリンセス気分を味わいたいときに見るプリンセスものと、甥っ子のミッキーマウス・クラブハウス再生のためだけに消えていたのだ。なんとも勿体無い話である。

過ぎたる5月4日すなわちMay fourthは、作中で繰り返される"May the Forth be with you"の言葉にかけてスターウォーズの日とされている。らしい。というわけでもうこの機会を逃すと後1年、私は浅ーい知識と共に生きていくことになる。別にいつ見たっていいと思うのだが、こういうきっかけでもないと動かないほどに私はミーハーであり、ぐうたらなのである。思い立ったが吉日、スターウォーズマニアの知人に何作目から見ればいいのか尋ねたところ、なんとエピソード4から見ろとのお達し。彼曰く、それが時系列順なので一番理解しやすいのだという。

というわけで早速、名作のスターウォーズ4を見てみた。公開は1977年ということもあり、今のような現実と見紛うような技術があった時代ではない。どこかノスタルジックで、ざらりとした印象を受けたが、それが逆に宇宙の壮大さを際立たせているようにも思えた。今更ここでスターウォーズを論じるつもりはないのだが、やはり名作と言われているだけあると納得できる作品であった。とにかくスケールもデカい。宇宙だから当たり前なのだが、戦闘シーンも豪快で見ていて気持ちが良い。エンドロールを迎えたとき爽快感は、やはりこのくらいの映画でないと得られないカタルシスであろう。

見終わって、剣道部だった中学時代、竹刀でライフセイバーごっこをやっていて怒られた男子部員がいたこともふと思い出した。あの頃の私たちは、宇宙へだって行けるようなエネルギーを、本当にどうしようもないことに向けていたのだ。

宇宙もの、そして二者の対立というとどうしても『銀河英雄伝』を思い出してしまうが、そして『銀英伝』もまた不朽の名作であるが、それぞれが違っていて面白い。こちらもものすごくざっくりいうと、宇宙で二つの国が戦う話で、それぞれのトップがとんでもなく魅力的なのだ。初めて『銀英伝』を読んだのは二十歳を超えた頃だったか。一人暮らしの東京の部屋で、文字通り夜を徹して読んだのを覚えている。最初は見慣れない欧州風の名前が覚えられず、書き出して相関図を作ったりした物である。キルヒアイスには恋心にも似た感情を覚えた。

二度目に読んだのは、新卒で勤めた会社を辞めて、ニート生活を送っていた頃だ。「ああ、私の人生、もう真っ直ぐな物ではなくなってしまった」と絶望を覚えながらも、ページを捲る手は止まらなかった。別に宇宙を統べるような生き方ができなくてもいいのだと、斜め上の方向からではあるが、エールをもらったような気がした。ラインハルトとヤンが流石に手を組んで張り倒しにきそうな結論ではあるが、あのとき確かに、あの長編を読みきった達成感と興奮の中で、妙な自信を感じたのである。

人生はきっとまだまだ続く。明日終わるかもしれないけれど、平均まで頑張れたとしたら、あと50年はあるだろう。その道中で、いくつの名作と呼べるものに出会えるだろうか。名作が名作たる所以は、その裏側で動いていた自分のドラマをもまた呼び起こせるからかもしれない。ただ流行っていただけとか、ただ評価が良かっただけではなく、自分の人生の一コマにぎゅっと結びつくようなシンパシーがあるからなのかもしれない。だからこそ、名作と呼べるものは人によって違うのだろう。

私はなぜ、スターウォーズを名作と呼んだのだろうか。またいつか、2024年5月4日のことを思い出す日が来るのだろうか。その日に、穏やかな気持ちであれたらいいなと願うばかりである。

 

 

今週のお題「名作」