砂浜の瓶詰め

砂浜を瓶に詰めて、小さな海を作りたい。ハワイの有益な情報はほとんどありません。

呑んで呑まれて

私は酒に弱い。前もって忠告であるが、やや汚い話になる。

もう、とんでもなく弱いのである。酒の失態は数知れない。見た目は酒豪そうに見えるらしく、大きな勘違いをされがちであるが、驚くほどに弱い。どれくらい弱いかというと、グラスビールだと1杯が限界、弱いあまあまゆるふわカクテルなら何とか2杯。それを超えると、もうとんでもないことになる。たまに家で缶ビールを開けると、半分飲むか飲まないかでブラックアウトしている。あまりにも弱いので肝臓に問題があるのかと検査を受けたが、若干脂肪肝の気がある他は肝臓の値は全くもって正常で、「ただ酒に弱い体質の人」と烙印を押されたに過ぎなかった。

酔って泣く人、騒ぐ人、絡む人、脱ぐ人、踊る人。いろんなパターンがあるが、私のパターンは往々にして飲むと顔や関節が赤くなり、気が大きくなって人に絡み始め、調子に乗って2杯目に突入したあたりで顔が青くなって消化器官をひっくり返すことになる。そうなってしまうと思考回路の全てが「気持ち悪い」に終始し、胃をひっくり返して口から引っ張り出して冷水で洗いたいとかそういうことを考え始めてしまう。血の気が引いて歩けなくなることもある。そしてほうほうのテイで家にたどり着いたとて、そこからは「もう2度と酒は飲まないのでこの苦しみから救い出してください」と神に祈る数時間が続く。毎度毎度のことなので、神様もいい迷惑だと思う。神様だからいいものの、仏様ならとうの昔に愛想を尽かされているだろう。

日本で会社員だった頃、会社の近くで飲むことが多かったので、会社の最寄駅から自宅最寄駅にに帰る路線のすべての停車駅にあるトイレの位置を把握していた。文字通り一駅ずつ降りては口から虹を出して、自宅まで帰っていたので名物の「各駅停瀉」と呼ばれていた。停「車」ではなく「瀉」であるあたりで、私がそれぞれの駅で何をしていたか察してほしい。ナニをしている間に二進も三進も行かなくなって途中の駅のトイレで終電を逃し、やむなくビジネスホテルや漫画喫茶で夜を明かしたこともある。もちろん、そこでは祈りの時間が続くのである。

色々と対策は立てているつもりである。飲む前に軽く食べておくとか、アルコールと同じ量の水を飲みながら飲むとか、飲んだ後には糖質を摂るとか、できる限りのことはやっている。それでもダメなのだから、もうどうしようもないのである。断っておくが、酒の場そのものは嫌いではない。大人数でワイワイガヤガヤは得意ではないが、気心知れた人たちとおしゃべりしながらの酒の場は最高である。だからついつい誘われると行ってしまうのである。

つい先日も、うまいビールに醸造所があると誘われ、ホイホイついて行ってしまった。ちゃんと直前にお菓子を食べて空きっ腹を避け、しっかりと食事をとりながら、そして水を大量に飲みながらの1杯だけ。私はもう新卒戦士だったあの頃とは違う、自分をちゃんとコントロールできるのだと証明するのだと意気込んでの、久々の外飲みであった。

全ては順調であった。ビールはとても美味しかった。誘ってくれた知人に絡むこともなく、隣のテーブルに乱入することもなく、その場で動けなることもなく、メニューを頭から音読し続けることもなく、スマートに楽しいひとときを終え、ウーバーに颯爽と乗り込んだところまではよかった。そこからの記憶はイマイチあやふやなのだが、気が緩んだのか、ドライバーに絡みまくったらしい。「君は日本人にしては珍しくよく喋るね」と嫌味を言われたことだけは覚えている。そして無事に帰宅し、数時間後に一瞬途中下瀉の旅に出そうになったが、何とか爽やかな朝を迎えることができた。起きて最初にウーバーの評価を確認したが、下がっていなかったのでドライバーには追加のチップを送っておいた。せめてもの贖罪である。

NHKー飲んだら吐かずに帰る。大人として当然のマナーである。私はあの夜、NHKチャレンジを無事成功させた。それは間違いない。次はNHKー飲んだら吐かない絡まない。私のNHKチャレンジはまだまだ続くのである。